KUWATA BAND〜ぶわんざい、頑張れっ、桑田佳祐!
"ONE DAY KUWATA BAND?ROCK CONCERT(AT TOHO STUDIO,19th Oct.1986)" [DVD]
- アーティスト: KUWATA BAND
- 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
- 発売日: 2001/12/05
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「俺たちが憧れたクラプトンもグランドファンク英語で唄ってたから、俺も英語で唄いたかった」というのが桑田の言い分であり、「全曲英語で唄われたアルバム『NIPPON NO ROCK BAND』には“ロック”が感じられない。少なくとも日本語で唄われたシングル、そしてサザンに於ける桑田のサウンドの方がロックだった──」というのが評論家・藤田正の意見だった。
此処でいう藤田の“ロック”なる言葉は、桑田が英語で唄うことに関して影響を受けたというアン・ルイスの「所詮、日本語て唄ってる限り歌謡曲てあり芸能界なのよ」という言葉を受けたものであると想像される。
確かに「スキップ・ビート」「メリーXマス・イン・サマー」と立て続けにヒットを飛ばしたクワタバンドとしては、そのアルバムは多少インパクトに欠けたものだったかもしれない。僕個人の感想としては、サザンやクワタバンドのシングルに比べると心に引っかかる部分は少ないものの、ただただ気持ちの良い音楽という印象だった。
さて──、今回リリースされたヴィデオ『ONE DAY KUWATA BAND~ROCK CONCERT』の話である。テープ、レーザー、VHDの三種が発売されていて、テープとディスクとではバージョンが違う。今回僕が観たのは90分のロング・バージョン(ディスク)の方だが、出来ればそちらの方をお薦めしたい。何故ならそこでは、LP『NIPPON NO ROCK BAND』が全曲演奏されているからであり、桑田佳祐は件の論争にキッチリと、彼なりの答えを出しているからである。
リトル・フィートやレイドバック以降のエリック・クラプトンに刺激され、それらの音楽性に日本語を乗っけることによりひたすら和製アメリカンロック・バンドであり続けた“サザン”の桑田が、ブリティッシュ・サウンドをも自らの中に見出したのがクワタバンドである。オープニングの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」や、ディープ・パープル風にアレンジされた「風に吹かれて」が、その表れだ。
桑田佳祐と同世代の僕には、そんな彼のメンタリティが良く判ると言わせて貰いたいし、このライヴに於ける彼らのサウンドは、何語で唄われようとアメリカでもイギリスのそれではなく、まさにニッポンのロックバンドの音だからだ。ぶわんざい*1、頑張れっ、桑田佳祐、クワタバンド!
(『ビデオ・ザ・ワールド』白夜書房刊、1987年月号不明。コラム「VIDEO CITY」より。)
【追記】さすがに22年も前の文章になると、「テープ、レーザー、VHDの三種が発売されていて──」なんて箇所に時代を感じざるをえない。VHDなんて、今知っている人はいないのではないか? ビクターが中心となって開発したビデオディスクである。アナログレコードのように針を使って再生するという何とも間抜けな方式(関係者の皆さん、すみません。涙)で、レーザーに押されアッという間に姿を消した。それに「VHS」と書かずに「テープ」と書いているのは、ソニーのベータもしっかり存在していた時代だからだ。現在はAV専門誌になっている『ビデオ・ザ・ワールド』も、まだビデオソフト全体のリリース本数が少なかったため、一般作の紹介もしていた。「VIDEO CITY」はそんなコラムページである。執筆者は他に高杉弾、青山正明、永山薫、山本勝之、藤木ただし(現・藤木TDC)他──と書いて、故人が二人いることに気づいた。また、本文中「ヴィデオ」と書いているが、当時は「VIDEO」をどうカタカナ表記するかはさほど統一されておらず、半数以上のライターが「ヴィデオ」としていた記憶がある。それと、本文をアップするのにあたりGoogleで検索してみると「桑田バンドって何ですか?」「サザンの桑田さんのやっていた“KUWATA BAND”というグループについて教えてください」という質問がネット上に幾つかあった。若い人が知らないのも無理はない。Wikipediaには「桑田の妻である原由子が産休中である1986年4月から1年限定で活動した」と説明されている。
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*1:「ぶわんざい=万歳」は、『ONE DAY KUWATA BAND~ROCK CONCERT』の中、桑田佳祐がライヴMCで何度もシャウトするフレーズ。